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こうじ探求人の学び日記 その2 ~日本人の「くらし」や「食」に根付く神への信仰心~

CRAFT NATURE

こうじ探求人の学び日記 その2 ~日本人の「くらし」や「食」に根付く神への信仰心~

■読みにくい漢字の数々〔直会、神饌、新嘗祭〕
 直会(なおらい)という漢字。読み方が分かりにくい漢字として遠い昔の試験勉強の際に、学習した記憶がありますが、その意味について深く考えたことはありませんでした。しかし、実は私に非常に身近な言葉でありました。

 私が住んでいる大分県宇佐市は、神輿(みこし)発祥の地ともいわれており、お祭りが盛んな土地柄です。お祭りは、花火、踊り、屋台などと楽しいことが満載の行事ですが、実は祭りで最も重要なのはその前に執り行われる「神事」です。

 この神事と直会については、先日ご紹介した「和食とうま味のミステリー・国産麹菌オリゼがつむぐ千年の物語(河出ブックス)北本勝ひこ著」で簡潔かつ分かりやすく説明されています。即ち、「古代人は現代人よりもはるかに神を身近に感じ、神に守られて生きていることを実感していた。・・・穢れることで神の怒りをかうことを恐れた一方、古代人たちは神に感謝をし、その神に食物を捧げた。それはその食物自体が、神がもたらしてくれたものと考えられていたからである。・・・その恩恵をもたらしてくれた方にその食物をお目にかけ、食べていただくのが礼儀ということになる。この料理はまず神にささげられたのち、神事が行われ、しかる後にこの料理を人が神とともにいただく。これが『直会』である。」と記されています。神にささげられる料理は、神饌料理(しんせんりょうり)と呼ばれています。この神饌は、身を清めた神職が真心を込めて丁寧に調理し、見た目も美しいので、現代の和食の原点となったといわれています。

 
【神輿の文化は脈々と受け継がれている:宇佐夏越祭りより】

 この神饌料理の内容は地域ごとに異なるようで、多岐にわたるようですが、全国に共通している素材があるようです。その代表たるものが「米」です。
 日本人にとって、米は単なる食物としてだけではなく、宗教的な神聖さをもっているようです。「記紀」とよばれる「古事記」「日本書紀」には、日本の最高神であるとされる天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、天孫降臨の際に孫の瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に稲を託し、それから日本全土で米が生産されるようになったことが記されています。この瓊瓊杵尊の曾孫が初代の天皇である神武天皇です。神話の世界ではありますが、それ以降、皇室が日本の稲作の中心という文化が形成されたようです。現に、米の収穫を祝う新嘗祭(にいなめさい)は、今でも宮中恒例祭典の中の最も重要なものと位置付けられています。
 現在では、11月23日は、勤労を尊び生産を祝い国民互いに感謝しあう勤労感謝の日とされていますが、元来は、新嘗祭の日でした。


■和食には、Culture/Craft/Regional/Natureが根付いている
 皆さんご存知と思いますが、2013年12月に日本人の伝統的な食文化である和食がユネスコ(国際連合教育科学文化機関、United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)の無形文化遺産に登録されました。文化遺産に登録されるにあたり、「和食」の4つの特徴が評価されたということです。

 1つ目の特徴は、多様で新鮮な食材とその持ち味を尊重しているという点です。日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、先ほどの神饌料理にもみられるように各地で地域に根差した多様な食材が用いられていることと、それに加えて、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達していることが評価されたようです。
 この地域ごとの新鮮な食材が活かされ多種多様な特産品が発達したというのは、和食のもつRegionalな一面が評価されたということですし、調理の技術や道具の発達は、和食のCraftな一面が評価されたということでしょう。

 2つ目は、健康的な食生活を支える栄養バランスがとれているという点です。一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われており、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っていることが評価されたようです。この日本の食事スタイルや栄養学的バランスというのは、科学も十分に発達していない時代に、日本の先人たちが知恵を振り絞り、感覚を研ぎ澄ましてつくり出したもので、まさに和食のもつCraftな一面であるということがいえると思います。

 3つ目は、自然の美しさや季節の移ろいを表現しているという点です。食事の場で、季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しめることが評価されたようです。これは和食のもつNatureな一面です。

 最後の4つ目が、正月などの年中行事との密接な関わりがあるという点です。日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれ、自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきたことが評価されたようです。正月のおせち料理、人日(1月7日)の七草粥、上巳(3月3日)のよもぎ餅や蛤、端午(5月5日)の柏餅、七夕(7月7日)の索餅、土用の丑の日のうなぎ、重陽(9月9日)の栗飯、十三夜・十五夜の月見団子、お彼岸のおはぎ、大みそかの年越しそばなど、日本には中国から伝来したと考えられるものや日本で独自に発達したと考えられるものを含めて多種多様な行事食があることが分かります。これらは和食のもつCultureな一面の一部であるということができそうです。
 


【御節供(おせちく)が語源のおせち料理は、縁起物が満載】

 このように、和食には、素材、調理法、器、盛り付けなどを含めた配膳全体(即ち、モノ的な要素)のみならず、歴史的な背景や宗教的な側面(コト的な要素)に至るまで、文化、職人魂、地域性、自然が根付いているということを学ぶことができました。
 私は、食べることが趣味の一つですので、これまでも和食のもつ繊細かつ複雑な味わいに舌鼓を打つ機会は数多くありました。今回、和食の持つ奥深さを識りましたので、今後は、視覚的な効果やその歴史的な背景にまで思いを馳せながら色々な和食を頂くという現場実践学習(=食べ歩き)を愉しみたいと考えています。

  • 林 圭

    三和酒類株式会社 / 三和研究所 所長

    1972年、芋焼酎のメッカの鹿児島県で生まれる。
    九州大学農学部修了後、三和酒類株式会社に入社。
    研究所でキャリアをスタートした後、様々な部署を経験し、
    一昨年に三和研究所に戻る。
    社外活動として、醸造学会若手の会運営委員長ののちに、
    現在は日本生物工学会の理事を務める。
    50年代のジャズとNFL観戦を好む。