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麹文化の酒「焼酎」をアメリカへ

CULTURE

麹文化の酒「焼酎」をアメリカへ

■本格焼酎セミナーの依頼が舞い込む
 アメリカ駐在もちょうど1年が経過しました。英語での会話にも慣れてきて、商品説明や軽いアメリカンジョークもこなせるようになった矢先の2月某日、アメリカで酒類の文化発信や啓もう活動を行っているThe Museum of the American Cocktailという団体から当社に本格焼酎セミナーの開催の依頼が舞い込んできました。これまでレストランイベントや展示会での簡単な説明の経験はありましたが、大人数を集めたセミナー形式の詳しいプレゼンテーションはこれまで経験したことがありません。果たして私の英語は伝わるのか、腕試しのときがやってきました。
※以下、「焼酎」とは「本格焼酎」のことを指します。

■焼酎を知らない米国人
 依頼を頂いてから数日間、どのようなセミナーをすれば米国人に「麹文化の酒」である焼酎が伝わるか頭を悩ませましたが、なかなか良いアイデアが思い浮かびませんでした。そこでまず私自身の経験から米国人が飲むお酒の現状を整理してみました。

① 米国人はビールやワインなどの醸造酒を好む。普段飲みはそれらがほとんど。ただし、BARなどではジンやウォッカを使ったカクテルを飲む人もいる。つまり蒸留酒自体には認知があり親しみもある。
② 多くの米国人が「焼酎」とは何かを知らない。一方、日本酒はかなりの認知があり、日本食レストランで日本酒を楽しむ米国人は多い。大吟醸(Daiginjo)・純米(Junmai)などの名称を知っている方もおり、米国人経営の日本酒専門店もある。つまり同じ日本のお酒として、日本酒と比較すれば分かり易いのではないか?
③ 日本酒を好む米国人は日本の文化に関心が高い。つまり日本の食文化の面からアプローチすれば興味を持って頂けるのではないか?

 これらの推測から、焼酎を「他の蒸留酒の違い」「認知度が高い日本酒との比較」「日本の食文化の酒である」という3つの視点で説明することにしました。

■「焼酎」を語る
 セミナー当日。会場にはフードライター、バーテンダーなど日本食に関心がある方々が20名ほど集まって下さいました。準備万端、さあ始まりです。
 


テイスティング用グラス

 最初は焼酎のカテゴリについての説明をしました。お酒は技術的に醸造酒と蒸留酒に大別されること、そして焼酎はウィスキー・ジン・ラム・ウォッカ・テキーラと同じ「蒸留酒のグループ」であることを説明しました。これによって「焼酎はどうやら度数の高い酒らしい」ということはイメージしてもらえたと思います。そうなると、次に彼らが興味を持つのは「焼酎と他の蒸留酒との違い」です。この説明に手を抜くと「焼酎はウォッカみたいなもの」と認識されてしまう恐れがあります。「焼酎」を正しく伝えるために、ここは頑張りどころ!焼酎と他の蒸留酒との違いは「1回蒸留で原料の風味を強く残していること」と「麦・芋・米・蕎麦などの穀物を原料として造り、それぞれに個性豊かな風味を持っていること」です。このような特性を持つ蒸留酒は他になく、日本特有のお酒として発展してきたことを伝えました。

 次に「焼酎と日本酒との比較」について。先の説明で醸造酒と蒸留酒の違いをはっきりさせているので、焼酎は日本酒よりも度数が高い蒸留酒であるということはすんなりと理解して頂けました。また、日本酒は冷や、あるいは熱燗でというようにお酒そのものの味わいをシンプルに楽しむ飲み方であるのに対し、焼酎はロック・水割り・お湯割りの他にもチューハイやカクテルの材料ともなることを説明しました。これにはカクテル好きのアメリカ人は興味津々であったようです。彼らは本当にミックスドリンクが好きで「混ぜる=より良いものが生まれる」という価値観を持っている方が多いように思いました。

 最後に今回のセミナーの肝である「焼酎は日本の食文化の酒である」についてですが、これは「麹」を中心に説明をしました。実はこれまで麹の側面から焼酎を説明することは避けてきました。なぜなら欧米人にとっては「麹=カビ」という認識があり、ネガティブなイメージを持つ方も多いと聞いていたからです。ただ、麹の説明なくして焼酎はおろか日本も語れないと思い、今回は説明に挑戦しました。

 麹は日本固有の国菌であり、日本の食文化に欠かせない醤油・味噌などにも使われる「Magical Ingredient:魔法の材料」で、日本酒と焼酎造りにも使われているということ、そして麹は発酵の作用によって「旨味」を引き出す力を持っているというお話をしました。日本の旨味は「Umami」として英語でもそのまま使用されるようになってきました。耳の早い日本通の米国人の中ではトレンドになりつつあるキーワードです。焼酎は「麹が持つ発酵の作用によって造られる、Umamiを感じさせる日本古来のスピリッツである」ということを理解していただけたのではと思います。

 
真剣にディスカッションをするゲストの方々

 ゲストの方々からは「発酵によって醸されるお酒としてヘルシーだと感じた」「ウォッカよりも味があり好き」「スムーズだけどリンゴのような果物のニュアンスもある」「透明なお酒だけど甘みも感じる」「全く知らなかった麹のことを知れてよかった」などのコメントを頂きました。他にも様々な質問も頂き、セミナーも大変盛り上がりました。

 焼酎を米国人に分かりやすいように一言で伝えるのであれば「穀物を原料とした日本の蒸留酒」で良いかもしれません。しかし、彼らが望んでいることは「まだ知らない新しいこと」を知る新体験です。今回のセミナーを通して、米国人にとっては焼酎も麹も完全に「Something New」(新しいもの)として楽しんでもらえると感じました。焼酎文化を伝えることは「麹文化」を伝えること。「麹文化」を伝えることは、「未知の日本文化」を伝えること、そういう風に今は思っています。「麹文化の酒」焼酎を通して世界に誇る日本の心・文化をこれからも伝えていきたいです。


  • 麻生 将人

    三和酒類株式会社 / 海外営業部 営業課 チームリーダー

    1984年、大分県別府市生まれ。福岡大学法学部卒業後、2007年に三和酒類に入社。製品課(瓶詰め)、国内営業を担当後2019年4月に渡米、iichiko USAに勤務。異文化コミュニケーションと焼酎文化の啓もうに奮闘中。小中高と野球部に所属、入社後は野球部と剣道部の掛け持ち、剣道4段取得。酒は生涯の友。