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世界の酒に~中国編~

CULTURE

世界の酒に~中国編~

■憧れの中国
 「これからは中国の時代。中国語の勉強をしなさい」これは高校生の頃に母に言われた言葉です。子どもの頃から中国映画が好きでブルース・リーやジェット・リーの映画に夢中になり、英語よりも漢字の方が好きで漠然と中国に憧れがあったのですが、この母の言葉が私の進む道を決めてくれたのではないかと思います。
 大学では中国語を選択し、3年次には1ヶ月ほど北京の語学学校にて学習しました。20年前の中国はまだまだ発展途上で、舗装された道路は少なく、男性の服装は同じようなものばかり、化粧をしている女性はほとんど見かけませんでした。これはビジネスチャンスがあると感じ、就職活動では中国市場を開拓出来る仕事を探しました。その当時は中国に力を入れる企業はまだ多くなかったのですが、三和酒類は「世界の酒に」という社是のもと、既に海外輸出に力を入れていたこともあり、中国での仕事を夢見て入社を決意しました。

■中国で日本のお酒を売るということ
 入社して3年後、2年間の香港語学留学を経て2007年、念願の中国を担当することになりました。2004年から中国へいいちこの正式輸出が始まり、私が担当になった時にはある程度商品が広まった頃でした。しかし、現地の日本食レストランで焼酎を飲むお客様は日本人。その当時、中国人にとっての日本のお酒のイメージは清酒であり、焼酎を飲む人は日本での生活経験がある人など日本に接点がある一部の人だけでした。
受け入れられなかった理由には、「飲み方」と「度数含めたその風味」によるところが大きいと感じます。中国において「良い酒はストレートが一番おいしい」、「口だけでなく、喉から食道にかけて余韻を楽しむ」など価値観の違いも存在しました。日本で焼酎が飲まれている事実を伝えるも届かず、当時はまだ日本の情報が少なかった事もあり日本の有名人といえば山口百恵さんや高倉健さんを想起する人が多かったですし、山は富士、酒は清酒といった具合です。どうすれば中国人に焼酎を飲んでもらえるのか。大きな壁を感じましたが、そこに打開するヒントもありました。

■中国の酒類事情
 話は少し変わりますが、ここで中国の酒類事情について書きたいと思います。中国発のデータによると、2019年の中国の酒類総量の97%は国産酒、輸入はわずか3%なのです。国産酒の内訳は7割がビール、残り3割が白酒やワインです。これは中国人のほとんどが国産酒を消費している事を意味し、まだまだ輸入酒が伸びる余地があると言えます。また日本食ブームもあり、主要3都市(北京市・上海市・広東省)において2010年に2,200軒だった日本食レストランは2019年には9,500軒、この10年で4倍強まで拡大しました。内陸部では少し遅れて増加傾向を見せています。

■中国の「麹」のお酒
 「麹」は日本を含む東アジア圏で食品やお酒などに幅広く利用されています。日本に日本酒や焼酎などの「麹の酒」があるように、中国でも白酒や紹興酒などの「麹の酒」があります。日本では穀物の一粒一粒に黄麹や白麹などのニホンコウジカビを繁殖させた「バラ麹」を用いることが多いですが、中国、特に白酒の製造では穀物を砕いて固めた型にクモノスカビを繁殖させた「餅麹」と呼ばれるものを使用する場合があります。


焼酎用のバラ麹(左)と白酒用の餅麹(右)

 因みに中国では「麹」のことを「曲」と書き「チュー」と読みます。酒類製造者には「麹は酒の骨」と言われるほど重要視されていますが、消費者には「麹」の認知はあるものの、まだその価値はあまり理解されていません。この「麹」の働きや効能が注目されるようになれば、中国でも「麹」ブームが起きて中国発祥の白酒や紹興酒はもちろん、日本酒や焼酎などの「麹の酒」の価値も上がるのではないでしょうか。中国の麹文化を掘り下げて営業していくのも面白いのではないかと思いました。

■日本式の飲み方、中国式の飲み方
 話を戻します。これまでは焼酎を「日本の飲み方であるお湯割りや水割り」で提案をしていましたが、前述したように「割って飲む」というスタイルに抵抗を感じる中国人には浸透しませんでした。それもあってか日本食レストランで飲まれる日本の酒は日本酒ばかり。たまに焼酎を注文した方がいたかと思うと、徳利(とっくり)で温めて猪口(ちょこ)で飲むという日本人からすると「間違った飲み方」をする方も…。徳利と猪口で飲むことを「間違った飲み方」と表現しましたが、「そもそも焼酎を飲むのに酒器を制限する必要があったのか?」「中国人が好きなように楽しんで飲んで貰うことが重要ではないか?」そういう想いからヒントを得て、「割らなくてもそのまま飲んで美味しい焼酎」をコンセプトに誕生したのが2013年に中国専用商品として販売をした「いいちこ暖酒」です。

 
【いいちこ暖酒】

 この「暖酒」は日本酒のようにそのままストレートで飲んでおいしい酒質として度数は16度、そして徳利と猪口で飲むスタイルを訴求しました。いくつかの店舗には酒燗器を提供し、私も店舗に張り付いて清酒を注文するお客様へ「新しい日本の酒、暖酒です。是非飲み比べて欲しい」とお客様とのコミュニケーションを始めました。そして発売から2年。本当に悔しい結果となりましたが暖酒は終売となりました。前向きな声を聴く事も出来たのですが、結論としては、お客様はみんな日本の「清酒」を飲みたかったのだと。

■私の夢
 私が中国を担当して12年になりますが、その間に中国は急速な発展を遂げました。SNSやキャッシュレス決済、ECサイトの充実など買い物や情報収集する場所が10年間で激変しました。営業活動の内容も然りです。情報発信の方法も変わりました。メーカーがいくら訴えても響かない事が、インフルエンサーと言われる影響力のあるヒトが発信する事で共感を得る。我々の焼酎の魅力を中国人の切り口で捉えるなど随分と考え方も変わってきました。
 昨年より導入を開始したECサイトの購入者コメントは3月末時点で3,500を超え、そのほとんどが中国人、中には香味に対するポジティブな評価や「割って飲んだ」という10年前とは違う反応を感じる事ができるようになりました。この広い中国、本当に色々な方がいます。デジタルのメリットを最大限に活用しながら地道に一人一人に向き合い、ファンを増やしていければと思っています。

  • 岡田 博道

    三和酒類株式会社 / 海外営業部 営業課 チームリーダー

    1979年生まれ。大分市出身。大分大学経済学部卒業後、2002年三和酒類に入社。
    好きなものは花椒と布製のカンフーシューズ。