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“麹人”が語る麹

CRAFT CULTURE

“麹人”が語る麹

■麹を育てる

入社以来36年間、ずっと酒づくりに携わってきました。酒づくりというと、製造者のテクニックに大きく左右されると思う方が多いと思います。もちろんそれも大事なのですが、実は酒づくりの主役は麹菌や酵母菌などの微生物なのです。彼らが気持ちよく働くことが出来るように職場環境を整備することが我々の仕事であり、酒づくりに一番大事な要素なのです。お酒が好きな人なら一度は耳にしたことがあると思いますが、酒づくりには「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」という言葉があります。この言葉にもあるように、まず酒づくりに重要なのは麹で、麹づくりが香味に大きな影響を与えると言われています。良い環境で育った麹菌はすくすくと成長し、その菌がつくり出した酵素がデンプンを糖化し、タンパク質をアミノ酸等のうまみ成分に変化させます。これは私の体験からくる感覚ですが、麹菌も世代を重ねるごとに進化をしているのではないでしょうか。同じ種類の麹菌でも20年前のものと今のものを比べると、今の方が更に酒づくりに適した麹菌になっていると感じます。

■麹とは

 麹とは、蒸した米、麦、大豆などの穀物に麹菌を付着させ、繁殖させたもの。麹菌は、古来よりわが国の醸造産物(焼酎、日本酒、味噌、醤油など)をはじめ、いろいろな食品に用いられており、わが国の豊かな食文化に貢献してきたことから日本醸造学会により「国菌」に認定された。
 麹菌と呼ばれるものには、わが国で醸造及び食品等に汎用されている次の菌が含まれている。
日本酒等の醸造に用いられるAspergillus oryzae
焼酎等の醸造に用いられるAspergillus luchuensis および Aspergillus luchuensis mut. kawachii
醤油等の醸造に用いられるAspergillus sojae

■麹のある生活、ない生活

 私はこのインタビューを受けるにあたり、一日は麹由来の食品(調味料・酒を含む)なしの食生活を、もう一日は麹由来の食品をふんだんに使った食生活を送ってみました。麹由来の食品なしの日、晩御飯の献立を考えてみましたが、漬物はダメ、卵焼きも醤油をつけてはダメ、野菜にかけるドレッシングも酢が入っているのでダメ。もちろん本格焼酎と日本酒も飲むことが出来ません。結局、白飯とキャベツ…に塩とカボスを絞ったもの、卵焼きも砂糖を入れて甘くしたものにして、どうにか麹由来の食品なしで終わることが出来ました。翌日は麹由来の食品をふんだんに使った献立では、白ご飯、味噌汁、漬物、刺身に野菜サラダ(ドレッシング入り)、そして本格焼酎、ととても豊かな食卓となりました。これまでは素材や調味料などにはあまり関心を持たず、料理の味や種類を愉しんでいました。しかし、今回の体験を通じてその料理に使われている調味料や調理方法にまで興味を持つようになり、食事の愉しみが一段階上がったと思います。そして、麹のありがたみを感じました。皆さまも一度試してみてはいかがでしょうか。

■麹の未来

 これまで麹というものは「醸造業者だけのもの」というイメージがあったと思います。しかし、麹菌は「国菌」であり、日本国民全員のものです。その麹菌からつくった麹を皆さんがもっと意識して、それを愉しむことで、食生活が更に豊かになると思います。大分県佐伯市に300年以上続く「㈲糀屋本店」というこうじの専門店があります。そちらの方から教えて頂いたのですが、和食文化を木に例えると、根は麹、幹は消化酵素、枝は調味料、実りは料理だそうです。根である「麹の品質を上げること」「バリエーション豊かな麹をつくること」で最終的に実りである料理が豊かになるのです。麹が和食文化を支えていることが良く分かる例ですね。


【和食文化の木】

先日、麹つながりのご縁でお漬物メーカーの銀座若菜様とイベントで対談をする機会がございました。和食文化の木の実りは違えど、根()幹の部分を強化することで枝、実りがより豊かになり、麹文化の愉しみが広がると確信すると同時に、根を広げていく義務があると感じました。正に「日本文化に麹あり」。このインタビューが皆さまの麹を愉しむきっかけになれば幸いです。


  • 丸尾 剛

    三和酒類株式会社 / 酒の杜21製造場 場長

    1965年、大分県宇佐市生まれ。地元の高校を卒業して三和酒類株式会社に入社。入社後は36年間、酒づくりに携わる。主に本格麦焼酎いいちこの製造を担当。趣味は元高校球児の息子から影響を受けた野球観戦。ゴルフ。