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「チャレンジする蔵」虚空乃蔵での日本酒造り -前編-

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「チャレンジする蔵」虚空乃蔵での日本酒造り -前編-

■学生時代から酒造りを志す
 大学へ進学し、無機・有機化学、分析化学、触媒工学、生物工学など「化学」を広く学ぶ中で、特に食品や酵素などの産業に不可欠な、微生物の働きを用する技術の奥深さに興味を持ち始めました。また、20歳を過ぎてからは、仲間やバイト先の先輩などとお酒を飲むことが楽しく、お酒そのものから「酒造り」への興味が膨らんでいったことを覚えています。
 4年次にはすでに酒造メーカーへの就職を決意し、学内で唯一微生物を扱う研究室を希望、無事配属になりました。研究室の恩師も大の日本酒好き。大学院時代には、山形、新潟などの銘醸地の酒蔵を訪問しては、基本的な醸造に関する知識を収集しました。
 遂には学業として、日本酒を醸造できる環境を整えたいと考え、税務署への申請手続きなども経験。実際の酒造りは卒業後に開始となりましたが、後輩が大学ブランドの日本酒を製造し、発売までこぎつけてくれたことは、良い思い出となっています。

■地元の酒造メーカーへ入社
 地元大分の酒造メーカーである三和酒類に就職が決まり、入社後、4年間は焼酎製造現場で主に麹、モロミの管理業務を経験しました。その後、念願の日本酒製造部門に配属になります。
 しかし、覚悟はしていたものの、寒い環境の中での仕込み、麹の夜間管理、ろ過作業、洗浄・清掃業務など1年目はどんな酒ができているかも全くわからないような、大忙しの毎日。肉体的につらく、覚えることばかりで酒造りを楽しむといった気持ちの余裕はありませんでした。
 一方で、醸造感覚に関する点については、自分が疑問に思ったことをとことん質問することを心がけていました。麹の出来やモロミの経過に関して「先輩社員はどういう状態が良いと感じているのか」「分析値や官能面、目標の酒質はどうやって設計されているのか」といった点には非常に興味を持っていました。
 先輩方には「酒造りはあくまで麹・酵母が主役であり、人間はあくまで環境を整えてあげる」という大根底を教えていただき、清掃や器具の洗浄などの目立たない部分を抜かりなくやることが重要だと痛感しました。
 


【酒米「雄町」の田植え】

■全国各地の日本酒を飲み、蔵元を訪問
 日本酒をもっと知りたいという好奇心で、全国各地の日本酒を買っては飲む、を繰り返しました。旨いと評判の日本酒はどんな香りや味がするのか、使われている酵母はどこの酵母か、伝統的な生酛・山廃づくりの日本酒はどんな味わいなのか、そして自社の酒と比べてどう違っていて、どんな特徴があるのか、といった視点でとにかくテイスティングを繰り返す日々。
 2017年には社内有志と共にJ.S.A. SAKE DIPLOMA資格を取得し、味や香りの表現方法や食事との相性について知見を広げました。更には酒を買って飲むことだけでなく、技術者セミナーなどで知り合った近県の蔵元を訪問しては、醸造設備や酒質設計に対してどういう考え方で酒造りを行っているのか、という具体的な技術情報を獲得したいと思うようになりました。
 2018年には、東京の地酒専門店の社長様と東北5県の銘醸蔵を見学させていただく機会を頂き、更には独立行政法人酒類総合研究所で約1か月半の日本酒セミナー受講などを通して、全国各地の蔵で行われている最新の醸造技術の現状を目の当たりにしました。製造技術のみならず、貯蔵管理やお客様の手にベストな状態のお酒が届くような仕組み作りまで計算された各蔵元の商品に対する愛情を感じると同時に、他社や酒屋、お客様との情報交換の重要性を感じ、日本酒に対する意識がより一層向上しました。

■そもそも日本酒造りに用いられる麹って?
 日本酒に使用される麹菌は一般的に黄麹菌 (Aspergillus oryzae)と呼ばれるカビの一種です。黄麹菌はその優れた性質が古くから研究されており、「国菌」=日本を代表する菌として認定されています。酒蔵は、黄麹菌を種麹メーカー(もやし屋)から購入して使用することが一般的です。黄麹菌の種麹は意外にも種類が多く、日本酒に使用すると甘みが強く出る種麹、苦味の成分が抑制される種麹など様々な特性を持った種麹が販売されています。
 杜氏は、目指す日本酒の酒質によってどの種麹を選択するかを決定していきます。昔は、自社で使う麹菌の種類を他社の杜氏に教えることはタブー中のタブーでしたが、近年は細かな情報交換を各社の杜氏が行っており、多種多様な日本酒を造って市場を活性化していけるように、また技術共有を行い、共に良い酒を醸すことができるように、情報をオープンにする流れができています。


【完成した米麹】

後編へ続く…


  • 佐藤 貴裕

    三和酒類株式会社 / 虚空乃蔵 醸造責任者

    1986年生まれ。大分市出身。
    北九州市立大学大学院国際環境工学研究科修了後、2011年三和酒類に入社。
    焼酎製造を経験後、2015年より日本酒蔵である「虚空乃蔵」で日本酒製造に従事する。
    2017年J.S.A.SAKEDIPLOMA取得、2019年清酒専門評価者第120号に認定。
    おししい酒を健康的に飲むために、早朝ランニングが日課。
    趣味のフルマラソンはこれまで20回以上完走。