記事Article

受賞までの長い道のり

CRAFT

受賞までの長い道のり

 2020年8月14日、 International Spirits Challenge事務局(以下「ISC」と記載)より三和酒類の麹のスピリッツ「TUMUGI」がOther World Spirits部門にてDouble Goldを受賞したことがホームページに公表されました。後日選出されるTrophyを除けば、Double Goldは部門最高賞。麹のスピリッツ「TUMUGI」が世界に認められた瞬間でした。そこで今回は「TUMUGI」の開発担当者である研究所商品開発課の岡本さんにお話を伺いました。
※TUMUGIはニッポン発のカクテルベーススピリッツです。詳しくはホームページをご覧ください。

■ISC 2020について
 記事本文の前にまずはこちらをご覧ください。「ISC」は下記のような大会となっています。
【大会概要】
 ISCはイギリスのWilliam Reed Business Media傘下の酒類専門雑誌「Drinks International」の主催により毎年開催される蒸留酒のコンペティション。世界中の業界関係者が結果を注視する権威ある大会で、各国トップクラスの蒸留酒メーカーが受賞を目指し出品する。エントリーは世界70ヵ国から1,700銘柄以上に及ぶ。
【審査方法】
 50人の酒類業界のプロにより、7日間の集中ブラインドテイスティング(香り・外観・味・後味)で審査され、審査員全員一致の合議制により賞を決定する。
【賞の種類】
 賞は「Trophy」「Double Gold」「Gold」「Silver」「Bronze」「No Medal」に分類され、各メダルにふさわしいものがなければ「該当なし」で終わる年もある。部門最高賞のTrophyは、Double GoldかGoldの中に相応しいものがあれば、一定期間をおいて後日選出される。更に全カテゴリーの中からその年のNo.1蒸留酒「Supreme Champion Spirit」が選出される。


【TUMUGIシリーズ:写真中央がDouble Goldを受賞したレギュラータイプ】

■受賞の喜び

―― まずは「TUMUGI」のDouble Gold受賞、おめでとうございます!

 ありがとうございます。「TUMUGI」は『麹』由来の豊かな味わいや風味をボタニカルで引きだすという、『麹』を軸とした日本独自の「カクテルベースとして開発したスピリッツ」です。今回この商品が「ISC」で弊社として初めてDouble Goldの栄誉を頂いた事は、日本人が、そして弊社が研鑽してきた『麹』を使った酒造りから生まれた品質が世界的に認められた証でもありますので、開発担当者として本当にうれしく思います。また、開発時には会社の同僚以外にもバーテンダーの方やボタニカル関係の方々に大変お世話になりました。関わった全ての方々にお礼を申し上げたいと共に、今後もお客様にご満足いただける商品をお客様にお届けしていきたいと決意を新たに致しました。

■「TUMUGI」は歴史と技術の積み重ね

―― 会社として初めてスピリッツを発売したことになるのでしょうか?

 全国発売する商品としては初めてのスピリッツとなりますが、その前段階として九州限定で販売をしていました。スピリッツ製造に関する技術の蓄積は少しずつしていたのです。

 弊社は麦焼酎「いいちこ」が主力の商品ですが、元々は清酒中心の造り酒屋でした。1979年に発売した麦焼酎「いいちこ」は、それまで清酒製造で培った『麹造り』の技術を活かして開発された商品です。そして、2015年に発売した「TUMUGI」はスピリッツ製造の技術だけではなく、清酒、そして焼酎造りの技術も取り込んでいます。「TUMUGI」が「豊かな麹由来の風味」を持っているのは、原酒が焼酎製造で培った『全麹造り』であることに起因しています。「TUMUGI」はまさに会社が積み重ねてきた歴史と技術の集大成ともいえる商品なのです。

―― なるほど!会社が積み重ねてきた『麹造り』の技術、それが清酒から焼酎へ、そしてスピリッツへと進化しながら受け継がれているのですね。「TUMUGI」完成までの道のりが良くわかりました。

 …と、いかにも順風満帆に進んだように大きく語りましたが、開発は困難と綱渡りの連続でした。「この酒質とコンセプトでいこう」と決まった時、上司には自信満々で「絶対いいものが出来ます!」と報告したものの、製造する為に必要な設備も整っていないばかりか、ボタニカル素材も望んでいる品質のものが入荷できるか分からない状態でした。実は本当に発売できるのか内心ドキドキだったのです。結局、望む品質のボタニカルを得るために新入社員の方々にも皮を剥いてもらって何とか間に合いました。本当に綱渡りの連続でした(笑)

―― まさに開発秘話ですね!現場のリアルが伝わってきました。発売に間に合って本当に良かったです。


 
【製造段階の蒸留前ミントスピリッツの香味確認】

■『麹』を伝える難しさ、飲んで伝わる美味しさ

―― 「TUMUGI」のホームページには、その特徴に『麹由来の豊かな味わい』とありますが、正直、文章だけでは味のイメージが湧きません。それを伝えて購入までして頂くのは大変だったのではないでしょうか。

 仰る通りで、発売当初はお客様に商品特徴をどのように伝えれば良いのか本当に苦労しました。どの方も『麹』自体は知っているのですが、「それをコンセプトにしたお酒」と言われてもピンと来ないようでした。しかも、「TUMUGI」はカクテルベースとして造ったスピリッツなので、説明する相手はバーテンダー。お酒の知識は言うまでもなく豊富で、味覚の鋭い方ばかりです。そんなプロフェッショナルな方々にうまく伝える方法はないか、営業マンと一緒に「あーでもない、こーでもない」と試行錯誤を重ねました。

 説明会を繰り返すうち、醤油や味噌などの『麹』を使用した身近なものからイメージして頂くのが伝わりやすいということが分かりました。その説明の後に「TUMUGI」を試飲して頂くと、ほとんどの方が「あ!麹の味がする!」という感想を持ちます。そう感じるのは普段から『麹』を使用した調味料や料理に馴染みのある日本人ならではの感覚なのかもしれません。

―― 醤油や味噌は味も濃くお酒ではないので、「TUMUGI」との共通項である『麹』を感じるのは難しいと思いました。しかし、飲んだ時にそれを感じさせるほど「TUMUGI」は『麹感』があるのですね。

 もう一つ、バーテンダーの方々に響いたのは「日本のスピリッツ」であることです。カクテルベースで使用するスピリッツはジン・ウオッカ・ラム・テキーラが多いですが、どれも起源は海外のものです。例えば日本人バーテンダーが和のカクテルを作る場合、やはり日本のスピリッツを使えることはありがたいそうです。そこに『麹』という世界でも珍しい香味が加わることで、独自性のある新しいカクテルが誕生するのではないかと期待しています。

■世界の酒に

―― 最後に今後の展開や夢についてお聞かせください。

 発売から5年(2020年現在)が経ち、今では多くのバーテンダーの方々に使って頂けるようになりました。TUMUGIの公式アンバサダーである「Bar Ben Fiddich」の鹿山博康様には「KOJI World Ambassador」として麹文化の酒を世界へ発信する活動をして頂いており、海外からのお問い合わせも増えました。また、自由が丘に店を構える「サクラバル」のオーナー辻健様には、「TUMUGI」をサワーのベースとして使って頂き、「麹サワー」として食事に合う蒸留酒の可能性を広げて頂きました(3,000杯も販売する月もありました!)。多くの方のご協力により、少しずつではありますが認知は上がってきたと実感しています。

 今回のDouble Gold受賞を機に、「TUMUGI」、そして『麹』を使ったお酒の魅力を海外含めより多くのお客様へお届け出来ればと考えています。『麹』を使った日本独自の酒造りを背景にして生まれた「TUMUGI」が日本中で、最終的には世界中のBARの棚に並ぶ日が来れば嬉しいですね。いつか海外旅行して、ふと立ち寄ったBARでバーテンダーが『麹』を使った酒造りを語ってくれながらオリジナルのカクテルを飲める日が来ればいいなと思います。

―― その夢、叶うと信じております。改めてこの度はDouble Gold受賞、おめでとうございます。10月のTrophy、そしてSupreme Champion Spiritの受賞も期待しています!


  • 岡本 晋作

    三和酒類株式会社 / 研究所 商品開発課 リーダー

    1980年生まれ。山口県の秋吉台周辺出身。
    山口大学農学部卒業後、2003年三和酒類に入社。
    入社後、製造部を経て商品開発業務に携わる。焼酎・スピリッツの新商品を開発。
    開発を担当したTUMUGIは『International Spirits Challenge 2020』でDOUBLE GOLDに輝く等、世界的なコンペティションで多数の受賞を果たしている。
    趣味はトライアスロン(2017年バラモンキング完走)と登山。Team USA所属